*中国武術に深い影を落とす、心意六合拳や八極拳などの回族の武術。イスラームを信仰する回族は、モンゴル帝国の環境によって形成された。中国武術は、完結した中国社会の中で、特殊に発達したものだろうか。それは、中国伝統思想を元に発生し発達したものだろうか。それは、どのような環境の中で発生し発達したものだろうか。
・・再び、わが師匠杉山正明に語ってもらおう。
#・・安禄山の挙兵からモンゴル帝国の解体まで、六00年あまり。中華とユーラシアは、ともどもに大きく変わった。なにより、中華は巨大化した。かたや、ユーラシアは、陸と海の両方で[文明圏]の枠をこえてつながれ、システム化した。中華とユーラシアの連動は、歴々たる事実といわざるをえない。
#・・いいかえれば、中華は[閉ざされた世界]ではなかった。実は、もともとオープン・スペースであった中華は、この六00年余を通じて、よりあざやかに[開かれた世界]となった。唐初の瞬間的な[世界帝国]の前後においても、それは見られたが、[とき]を追って草原と中華を問わずボーダレスとなりゆき、ついに文字どおりの世界帝国モンゴルにいたって、ユーラシア全域はほぼオープン・スペースと化し、陸域と海域をはるかにこえた往来・交流が一気に開かれた。そして、それをささえる中核的な地域が、中華であったことは疑いをいれない。こうしたことは、中華の歴史を通じて、際立つ事態であったといわざるをえない。
#・・中華に蓄積されたさまざまな智慧・技術・方式は、その多くがモンゴル時代において、より一段と仕立てあげられたうえ、世界に発信・伝達された。よくいわれる火薬・火器・羅針盤・印刷などはもとより、紙幣運用、銀建て経済、産業型社会、海と航海の組織化、国家をこえた自由通商、さらにはようするに資本主義なるものも、このときに[世界化]を開始した。かたや、中東以西の知識や学術・思弁・ノウハウも、まとまって中華へ到来した。人類史と中国史は、あきらかにこの六00年余でステップ・アップした。
#・・人類史上で、第一回目のシステム統合がなされた[とき]であったといっていい。すなわちそれは、ユーラシア世界史のひとつの到達点であった。同時にまた、次なるグローバル化時代への扉をおしあけるものでもあった。
疾駆する草原の征服者(中国の歴史第8巻)講談社 杉山正明著より